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詳細説明
本作品は、物が持つ活力を人為的に再付与し、現実世界への影響を可視化することで物と人間の関わり方を映像表現の中に再構築する。物が発するノイズによって歪んだ現実は、我々に本来あるべき世界を見せつける。
コンセプト
イヤホンが生む人工の静寂と、歩道に転がる空き缶の軋み、現代都市は聴覚と視覚の両面で「要らないもの」を隅へと追いやっている。デジタル処理でざわめきを消し、手放されたプラスチックや金属は風に鳴りながら忘れ去られる。私はこの二重の排除を反転させるため、拾ったゴミにピエゾ素子を貼り、その震えを映像へ書き込む装置を設計した。 ノイズ理論家ジャック・アタリは「ノイズは秩序を揺さぶる前兆だ」と語る。哲学者ジェーン・ベネットは廃棄物に潜む〈ヴァイブレント・マター〉を提示し、物質にも行為能力があると示した。さらに文化人類学者メアリー・ダグラスは「汚れとは場違いな物質」だと言う。ノイズもゴミも都市の分類装置からこぼれ落ちた“場違い”の同類であり、両者 を再結合すれば都市の自己像に亀裂が入る。これが本作の核心命題である。装置はピエゾで得た信号をFETバッファで受け、FFT解析。帯域エネルギーをTouchDesignerによるビデオエフェクトへ送り、Webカメラ映像をリアルタイムにグリッチさせる。缶が触れなくてもゴミ自身が鳴動し映像を侵食し続けるため、観客は“静かな”都市の裏で生き続ける排除物の存在を視覚と聴覚で体感する。 排除された音と物を再結合する本作は、都市が見えなくした外部性を可視化する小さな生態系だ。本稿で示した回路と信号経路は、排除を芸術的に“再配線”する具体例でもある。捨てられたもの同士の連帯が耳と目を開き直し、「何を排除して私たちは秩序を保っているのか」と問い返す契機になることを期待する。